Introduction
80人以上もの被害者を出し、現在も係争中の一大事件の真相に迫る。
フランスで現在も裁判が進行中の「プレナ神父事件」。一人の勇気ある告発者から端を発し、結果的に80人以上もの被害者が名乗りをあげ、プレナ神父が教区を変えながら長年にわたって信者家庭の少年たちに性的暴力を働いていたという驚くべき事実が白日の下にさらされた。フランスのみならずヨーロッパを震撼させたこの衝撃の事件に、今やフランス映画界のトップにして最先端に立つフランソワ・オゾン監督が、挑む。
出演は、若き天才グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』で圧倒的な存在感と美しさを発揮したメルヴィル・プポー、『ブラッディ・ミルク』でセザール賞を受賞したスワン・アルロー、ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞した『ジュリアン』の父親役が記憶に新しい実力派のドゥニ・メノーシェ。本作で3人揃ってセザール賞にノミネートされ、心をうがつ傷を繊細かつリアルな演技で表現したアルローが見事助演男優賞を獲得した。
オゾンはこれまでのスタイリッシュな映像と、挑発的かつ幻惑的な作風を封印、子供時代の健やかであるべき日々を奪われた被害者たちの魂の慟哭に寄り添いながら、彼らが人間としての尊厳を取り戻す戦いを、緻密かつ緊張感の漂う演出で描き上げた。ベルリン国際映画祭では銀熊賞(審査員グランプリ)の栄誉に輝き、本国フランスで公開されるや、心を震わせるヒューマンドラマとして絶賛され、91万人を動員する大ヒットを記録した。Story
“君も触られた?” それは少年たちの、公然の秘密だった。
妻と子供たちと共にリヨンに住むアレクサンドルは、幼少期に自分を性的虐待したプレナ神父が、いまだ子供たちに聖書を教えていることを知り、家族を守るため、過去の出来事の告発を決意する。
最初は関りを拒んでいたフランソワ、長年一人で傷を抱えてきたエマニュエルら、同じく被害にあった男たちの輪が徐々に広がっていく。しかし、教会側はプレナの罪を認めつつも、責任は巧みにかわそうとする。
また、アレクサンドルたちは沈黙を破った代償――社会や家族との軋轢とも戦わなければならなかった。果たして、彼らが人生をかけた告発のゆくえは――?物語は、何十年経ってもなお、虐待のトラウマに苦しむ男たちが告発するまでの〈葛藤〉と、告発したことによる〈代償〉、それでも告発によって確かに生まれた〈希望〉を紡ぎ出す。人生を破壊する性的虐待という暴力の恐ろしさと、そこから再生していく人間の力強さ、そしてそれを支える家族の愛が描き出され、まさに人間という存在の光と闇が、ここにある。心震わせる極上のヒューマンドラマだ。
Staff&Cast
監督/脚本
フランソワ・オゾン
1993年に国立の映画学校を卒業。短編『サマードレス』(96)や 長編第一作『ホームドラマ』(98)が国際映画祭で評判を呼び、『焼け石に水』(00)でベルリン国際映画祭のテディ賞を受賞。 以降、ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの世界三大映画祭の常連となる。セザール賞の監督賞には『まぼろし』(01)を始め、『8人の女たち』(02)、『危険なプロット』(12)、『婚約者の友人』(16)でノミネートされてきた。『しあわせの雨傘』(10)では同賞の脚色賞にノミネート。
オゾン初の事実を元にした社会派ドラマ『グレース・オブ・ゴッド 告発の時本作』(19)は第69回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品され銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したほか、2020年のリュミエール賞では最多の5部門にノミネート、セザール賞では7部門8ノミネートされ、スワン・アルローが助演男優賞に輝いた。
アレクサンドル役
メルヴィル・プポー
母親がキャスティング・ディレクターだったことから、子役として映画に出演。89年にジャック・ドワイヨン監督の『15才の少女』に出演、セザール賞有望若手男優賞にノミネートされた。『夏物語』(96)、『クリスマス・ストーリー』(08)、『わたしはロランス』(12)、『白い帽子の女』(15)など多作品に出演。フランソワ・オゾン監督作品では『ぼくを葬る』(05) 、『ムースの隠遁』(09)に出演し、本作で3作目となる。
フランソワ役
ドゥニ・メノーシェ
クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09)に出演し、注目を集める。主な出演作は『黄色い星の子供たち』(10)、『疑惑のチャンピオン』(15)、『エンテベ空港の7日間』(18)など。2012年の短編『すべてを失う前に』が第86回アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされ、長尺版となる『ジュリアン』(17)にも同役で出演、作品は第74回ヴェネチア国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した。フランソワ・オゾン監督作品へは『危険なプロット』(12)に続いての出演となる。
エマニュエル役
スワン・アルロー
祖父が役者、父が舞台装置家、母が舞台監督&チーフキャスティングといった芸能一家で育つ。2010年、カンヌの批評家週間で上映された『美しき棘』(10)でその名を知られるようになる。2016年『アナーキスト 愛と革命の時代』でセザール賞有望若手新人賞を獲得。2017年には『ブラッディ・ミルク』で、セザール賞最優秀男優賞に輝いた。
Review
善悪二元論に陥ることなく、フランス社会を素晴らしく明確に分析している
―Le Point
沈黙を破った普通の人々を見事に描き、政治的、社会的に関与した秀逸な作品
―Elle Magazine
非常に興味深く、野心的な、緊急の時事問題の物語
―Variety
古きもの(=過去)が新しきもの(=未来)に影響力を与える、見事にタイムリーなパワフルな作品
―Wall Street Journal
忍耐強く、明晰で寛大な人間性を持つ、素晴らしいプロセス・ムービー
―Los Angeles Times
神への信仰を失うのではなく、お互いの信頼を見つけることについて描かれている
―Boston Globes
より感動的なものに包み込んでいくように作られている
―New York Times
断固とした信念と静かな憤慨によって作られた、社会的正義の映画だ
―Hollywood Reporters